クリケットは、世界での競技人口がサッカーに次いで第2位といわれる、世界中で大人気のスポーツです。しかし、日本での普及はあまり進んでおらず、日本クリケット協会(JCA)によると、日本におけるクリケット競技人口はおよそ3,500人とまだまだ少ない状況。2026年に愛知県で開催されるアジア競技大会の競技種目入りを果たすためにも、全国的に普及活動がおこなわれています。

愛知県津島市にも、積極的にクリケットを広めようとする方がいます。それが、津島クリケットクラブのキャプテン、ウマル・アハマド・ダール選手。母国パキスタンでクリケットに触れて育った彼は、津島の地からもっといろいろな人にクリケットのすばらしさを知ってもらおうと活動しています。

今回は、ウマル選手が思うクリケットの魅力や、どのようにクリケットを周りに広めているのかを伺いました。

クリケットとは


日本クリケット協会(JCA)公式HPから引用

クリケットはイギリス発祥の野球に似たスポーツで、1チーム11人で試合は2チームでおこないます。守備側は投手 (ボーラー) と捕手 (ウィケット・キーパー)とそれ以外の守備をするフィールダーと呼ばれる選手から成り、攻撃側は2人の打者 (バッツマン) がグラウンドに入ります。得点の方法は2パターンで、片方のバッツマンが打ったボールがグラウンドを越えるときと、打ったボールを守備が拾っている間にバッツマンが互いの場所へたどりつけたときです。この守備と攻撃を交互におこない、試合終了時により多く得点していたチームが勝ちとなります。

ウマル・アハマド・ダール|プロフィール
1992年生まれ、パキスタン出身。母国パキスタンではクリケットが国民的スポーツとして盛んであり、幼い頃からクリケットに慣れ親しむ。8歳で日本に来てからもクリケットを続け、以前は滋賀クリケットクラブでプレー。近畿代表としてクリケットの全国大会のジャパンカップに出場し、初参加にして3位になった実力を持つ。滋賀クリケットクラブで設立のノウハウも学び、2017年に津島クリケットクラブを設立し、キャプテンを務める。

母国パキスタンでは、物心ついたときからクリケットが身近な存在だった


ークリケットを始めたきっかけを教えてください。

ウマル:クリケットは母国パキスタンでは非常に盛んなスポーツなので、物心ついたときから自分もやっていました。友達と公園でクリケットをして遊んだり、学校ではいつもクリケットについて話したりしていました。

8歳で日本に来てからもクリケットを続け、以前は滋賀のチームに参加していたのですが、自分が住んでいる津島でもクリケットをしたいと思いました。それなら自分でチームをつくろうということで、滋賀のチームに所属しながらチームづくりのノウハウを学び、2017年に津島クリケットクラブを設立したんです。

ーなぜ津島でクリケットクラブを設立しようと思ったのですか?

ウマル:津島にもともと住んでいたこともありますが、津島という地がすごく好きなんです。

静かな町で住みやすいし、なにより人が良いです。クリケットの活動をしていても、津島のみなさんは私たちの考えを理解してサポートしてくれます。異文化理解と新しいことを積極的に受け入れてくれる印象ですね。

ーチーム設立の際、どのようなノウハウが必要でしたか?

ウマル:メンバーや協力者の集め方やお金の管理の仕方、場所探し、道具の入手方法などです。最初はわからないことばかりでした。

滋賀のチームでチームを運営する仕組みを学ばなければ、津島クリケットクラブをつくるための自信が持てなかったと思います。そのため、違うチームに所属していた経験があって良かったです。

ーそのようにチーム設立の準備をされるなかで、一番苦労されたことはなんですか?

ウマル:グラウンドの手配ですね。休日に取りたかったのですが、野球場は野球チームが使っていて空いていなくて。結局、今は金曜日の昼にグラウンドを借りてやっています。

というのも、津島クリケットクラブにはパキスタンやインド、スリランカ、ネパールとさまざま国籍の人が所属しており、イスラム教徒もいます。そのため、礼拝で金曜日は午後から休みという人が多いんです。

しかし、金曜日の昼だと来られない人もいるので、最近は稲沢に金曜日の夜に借りられるグラウンドを見つけました。そこに拠点を移そうかと検討中です。

ーということは、チーム全員であまり練習できていない状況なんですね……。

ウマル:はい……。ボールも車に当たったりするといけないので公式の硬いものは使えず、テニスボールにテープを巻いた柔らかいボールで練習しています。しかし、試合では硬いボールを使うので、練習のときと感覚がまったく違います。最近の試合で勝てなかった原因の一つは、硬いボールを扱う経験が少なかったことだと思うんです。

とはいえ、津島クリケットクラブのメンバーの多くは、母国や日本でクリケットの経験が豊富で、実力はあります。津島クリケットクラブが東海クリケット協会に正式に登録される前に、1番めに登録されていたチームと試合をしたのですが、5戦中4勝を果たしました。これから練習できる機会が増えれば、もっと上を目指せると思っています。

クリケットは誰でもどこでもできる自由なスポーツ

バッツマン(打者)がバットを振っている様子


ークリケットの難しいところを教えてください。

ウマル:1つめはボールの硬さです。クリケットのボールは皮革で包まれていて、野球ボールより硬いです。それほど硬いボールを扱うのは難しく、手にマメがたくさんできますし、突き指も絶えません。

右下の赤いボールがクリケットの公式球


ウマル:クリケットの難しいところの2つめは、守りながら攻める点です。クリケットは野球とは違い、たった一球のミスでアウトになって次の出番がかなり先になってしまい、それは公式戦だと日をまたぐほどです。ミスをするのは絶対に避けたいので、ミスをしないよう守りに入りながらも、得点するために攻めの姿勢も必要なところが難しいですね。

ーウマルさんが思うクリケットの魅力とはなんでしょう?

ウマル:子供でも誰でも「よく打てる」ところです。クリケットのバットは平たいので面積が広く、野球のバットよりもボールが当たりやすいんです。よく打てるとやはり楽しいし、ハマってくれる人が多いです。

また、守備のフィールダーの活躍も見逃せません。打者が打ったボールをダイビングキャッチする様子はまさに圧巻で、かなりの反射神経と運動能力がなければできない技です。

ークリケットが日常的な場面で役立っていると感じるときはありますか?

ウマル:人との交流が生まれていると感じます。クリケットは難しいスポーツではないので、友達を気軽に誘いやすいし、「よく打てる」からやれば絶対楽しい。そうしてクリケットの輪が広まるんです。私が友だちや子供たちに教える機会があったなかでも、輪が広まる感覚がありました。

また、クリケットは人数がいなくとも、場所を選ばずとも、道具がなくともできます。私が小さい頃は紙を丸めてボール代わりにしていました。本を使ったこともあり、開いたページに書いてある番号が6だったら6点、4だったら4点、0だったらアウトのようなルールでした。

それくらいクリケットは自由なスポーツで誰もがやりやすく、それが競技人口が世界第2位の要因ではないかと思います。

アジア競技大会の競技種目入りを目指して

ボウラー(投手)がボールを投げている様子


ーどのような普及活動をおこなっていますか?

ウマル:津島の小学校で体験会をしたり、児童施設や福祉施設でボランティアで子どもたちにクリケットを教えたりしています。クリケットをする人たちが増えてくれれば、単純に私たちも楽しさが増すので、教えるのは個人的に好きなんです。

ー今日(2019年5月末)も体験会だったのですよね。子どもたちの反応はどうでした?

ウマル:とても良かったです。今日は第1回体験会が好評でおこなわれた第2回だったんですよ。第1回と半年ほど間が空いたのですが、子供たちが毎日でもやりたいと言ってくれたので、これからは月1回ほど体験会をおこなうかもしれません。

そうやってクリケットが子供たちに広まって、いつか学校で部活動になってほしいですね。実は東京や大阪ではすでに部活動として取り入れているところがあるので、愛知でもそうなってくれれば嬉しいです。

ー2026年に愛知でアジア競技大会が開催されますが、クリケットはその競技種目入りも目指しているんですよね。

ウマル:その活動の一貫として、2019年3月29日に名城公園で、日本クリケット協会主催でおこなったのが「クリケットチャレンジ in 名古屋」です。名城公園に空気で膨らませたドームを設置し、その中でクリケットを教えました。

そういったアジア競技大会の競技種目入りを狙う背景もあり、いま愛知ではクリケットを普及する動きが盛り上がっています。大阪や関東に比べて愛知は学生チームがまだ少ないですが、これからアジア競技大会日本代表を目指す学生チームはきっと増えると思います。

クリケットを介して外国人と日本人の距離が近くなってほしい

津島クリケットクラブのみなさん


ー津島クリケットクラブの目標はなんですか?

ウマル:1つめは、クリケットをもっと多くの人に知ってもらうことです。「ジャパンカップ東海大会優勝」のような格好いいことを言いたいところですが、現時点では早いかなと。今は私たちの活動を通して、クリケットの知名度を上げるところに注力したいです。

2つめは、クリケットができるグラウンドを名古屋付近につくることです。現在、東海では静岡県富士市にしかグラウンドがなく、名古屋からは遠いです。名古屋および愛知の人がクリケットをやってみたいと思ったときにすぐできるように、もっと近いところにグラウンドをつくりたいです。

ー愛知のなかでも、津島にグラウンドができれば嬉しいですよね。

ウマル:そうですね。単純に近いとありがたいというのもありますが、試合があるときに県外や国外から人が来ると、津島という町自体が盛り上がると思います。また、クリケットの国際的な面を利用して異文化交流イベントなどを開催すると、津島にもっと人が集まるのではないでしょうか。

私は市の役員でもなんでもないですが、純粋に津島が好きなので、クリケットによって津島に恩返しができたらいいなと思っているんですよ。

ークリケットの普及活動にあたって、津島を愛する気持ちが大きな原動力になっているのですね。

ウマル:それだけでなく、パキスタン人やインド人の幼い子供たちが日本で大きくなったときに、そこに当たり前のようにクリケットが存在していたらいいなと思うんです。私の家にも0~4歳の5人の子供がいるのですが、彼らが大人になる頃にはそうなっていてほしい。

もしそのような未来が実現していたら、外国人と日本人は今よりずっと近い関係になっていると思うんですよ。私たちと一緒にクリケットをしてくれる日本人は、私たちの宗教のことや文化のことも、きっと知ってくれているからです。クリケットを介して外国人への理解が深まって異文化交流が進めば、外国人も日本でもっと生活しやすくなると思います。

ー今からクリケットを始めたいという人に向けてメッセージをお願いします。

ウマル:クリケットは誰でも楽しめるスポーツです。興味がある人は、まずは1度プレーしてみてほしいです。

実は現時点で、「クリケットをやってみたい」という問い合わせはたくさん来ています。しかし、なかなかみなさんの都合の良い練習日が設定できていないのが現状です。私たちもクリケットができる環境を整えようと奮闘中なので、クリケットができる機会が身近にある人は、ぜひ1歩踏み出してみてください。クリケットという世界中で愛されるスポーツを一緒に楽しみましょう。