アルティメットは、フライングディスク(フリスビー)を使ったスポーツ。1968年に、アメリカの高校生ジョエル・シルバーが考案して始まりました。フライングディスクの飛行特性を操る技術や走力、持久力を要するという、他の球技にはない特徴から「究極(Ultimate)」と名付けられたそうです。

現在、アルティメットの競技人口は日本および世界で増加傾向にあります。2028年夏季オリンピックの開催地がアルティメット発祥の地アメリカに決定したことから、競技入りの可能性が高く注目を集めています。また、アルティメットにおいて日本は世界各国に引けを取らない強さを誇り、「日本代表が世界で勝ちにいける団体種目」とされているのです。

このように、さらなる普及が期待できるアルティメットに15年以上取り組んでいるのが鮫島 萌さん。世界一に輝いた経験もある女性のアルティメット選手です。アルティメットと向き合い続けて得たもの、女性アスリートとしての生き方について、お話を伺いました。

アルティメットとは?


1968年アメリカ発祥の7人制スポーツ。100m×37mのフィールドでフライングディスクと呼ばれるフリスビーを落とさずにパスをして運び、コート両端のエンドゾーン内でディスクをキャッチすれば得点となります。

アルティメットは接触禁止、かつフェアプレーを最重要視したセルフジャッジ制を導入していることが大きな特徴で、すべての選手はこのルールに忠実でなければなりません。アルティメットは「Spirit of the Game」という各選手のフェアプレーに対する責任感の上に成り立っています。また、男女混合チームが成り立つスポーツであることもアルティメットの特徴の一つです。

鮫島 萌|プロフィール
1985年生まれ、愛知県春日井市出身。2003年に大学進学とともにアルティメットを始め、2004年に世界大会出場、2012年に念願の世界一に。2016年には唯一の外国籍選手としてオーストラリア代表入りし、世界大会で5位になる。2018年は所属チームCafe de Luidaで全国大会準優勝、世界クラブチーム選手権大会出場を果たした。現在は障がい者が働く農園に勤めながら、Cafe de Luidaのサポートを行っている。

アルティメットを始めたきっかけは元日本代表の兄の言葉


中原:アルティメットを始めたきっかけはなんですか?

鮫島:大学に入ったときに、すでに同じ大学でアルティメットを始めていた兄に誘われたんです。「歴史的にまだ新しく、日本代表になれる可能性もあるスポーツだからやってみないか」と。

練習体験に行ったとき、普通なら素人は怖がるダイビングキャッチを自然とできて歓声を浴びました。中学・高校とバレーボールをやっていた経験が生きたのだと思います。アルティメットはバレーボールと違って身長差があまり影響しないスポーツであることからも、「自分に向いているのかも」と思いました。

中原:アルティメットはお兄さんに教わったんですか?

鮫島:はい。兄は日本代表に選ばれたこともある、すばらしいアルティメット選手で尊敬しています。「同期や先輩に勝つにはどうすればいいか」「この状況はどのプレーが最適なのか」など、家や帰り道でいつも兄に相談していました。

私の大学はアルティメットの強豪校で、同期や先輩のレベルも高かったんです。私は負けず嫌いなので、どうしたら誰よりも強くなれるのかを常に考えていました。

中原:アルティメットのどういうところが魅力だと思いますか?

鮫島:「走る・飛ぶ・投げる」など、あらゆる動きを使うダイナミックなプレーは見ている人も楽しいと思います。ダイビングキャッチや、高く飛ぶフライングディスクを敵と競ってキャッチするプレーは、思わず感嘆の声が上がるほどです。

また、天気や風など、そのときの環境でフライングディスクの動きは変わります。そのため、コントロールがかなり難しいのですが、難しいからこその面白さがあります。

アルティメットならではのプレースタイル「Spirit Of The Game」


中原:アルティメットの大きな特徴として、審判がいないんですよね?

鮫島:はい。アルティメットではプレーヤーが審判の役割も果たします。ほかのスポーツは、ジャッジが難しいプレーは映像判定や審判が白黒つけるのが一般的ですよね。しかし、アルティメットはスポーツマンシップに則る方針がより強いです。お互いが主張したことは嘘偽りない意見として尊重し、妥協点を見つけていきます。

中原:妥協点が見つからなかったらどうするんですか?

鮫島:話し合いが規定の時間より長引く場合、試合を一つ前のプレーに戻すことがあります。しかし、プレーを戻す選択よりもしっかりとお互いの意見を聞き、尊重し合うことの方がより良いとされています。

中原:そういったフェアプレーを重視する姿勢が、アルティメットでいう「Spirit Of The Game」なんですね。

鮫島:スポーツだとどうしても勝敗にこだわり、自分に有利になるように事を運ぶ傾向が少なくないと思います。アルティメットでは、勝利ももちろん大事ですが、「いかにフェアに試合が進むか」「相手の気持ちを尊重できるか」という点を大切にしています。

私は「Spirit Of The Game」の考え方を通して、自分の考え方も大きく変わりました。

中原:どのように変わりましたか?

鮫島:世の中にはいろいろな考えを持った人がいて、「Aがいい」と言う人もいれば「Bがいい」と言う人もいます。私は今まで、自分が「Aがいい」と思うとAを譲らない性格でした。でも、人が違えば意見も違うのは当たり前のことなんだと受け入れ、相手の意見も尊重するようになりました。

中原:「Spirit Of The Game」の考え方が日常生活で生きた例はありますか?

鮫島:今の仕事でかなり生きています。さまざまな企業の方と話す機会が多いのですが、他社には他社なりの考え方や規則があるということを感じます。でも、私たちの会社にも独自のスタンスがあります。その状況で、いかに相手の意見を聞いて、かつ自分の意見もしっかり伝えて、冷静に話し合って納得いく答えを見つけ出せるかが大事だと気づきました。それは「Spirit Of The Game」を通じて身についたスキルだと思います。

中原:「Spirit Of The Game」のほかにアルティメットの大きな特徴として、男女混合チームを組めることがありますよね。ある程度の身体能力の差がある中、なぜ男女がともにプレーできるのでしょうか?

鮫島:男性はパワーがあるためフライングディスクの飛距離が長く、背が高いため高く飛ぶフライングディスクをキャッチしやすいです。それに対し、女性は細かいスローを正確に投げることに長けています。フライングディスクをエンドゾーンに持っていくまでに、長いスローだけでなく短くて細かいスローも必要なので、そこで女性が活躍できると思います。

また、ボールと比べて、フライングディスクはある程度の距離であれば女性も男性に引けを取らないスローを投げることができます。そのように、男性優位と言われるスポーツが多い中、女性が活躍できるのもアルティメットの良いところですね。

女性として、アルティメット選手として、これから目指すもの


中原:現在、妊娠・出産に向けてアルティメットをお休みしているそうですね。その決断をしたきっかけはなんでしたか?

鮫島:3年前に受けた、女性アスリートのライフプランに関する講義がきっかけです。女性は結婚後は妊娠・出産とライフステージの変化が大きく、それによって競技人生も左右されます。なかなか引退できなくて妊娠・出産が遅れてしまったり、妊娠・出産後に復帰したくても戻れる環境がなかったり……。私はやはり、「アスリートとしても女性としても人生を楽しみたい」と強く思いました。

そして、そのときに「2年後にアルティメットを一旦休んで妊活する」と決め、それをパートナーにも伝えたんです。パートナーからの了承も得て、そのライフプランを見据えてその2年後に結婚しました。

中原:今はプレーしない形でチームをサポートしているそうですが、どのようにサポートしているんですか?

鮫島:私の所属しているチームには、チーム全体のキャプテンとは別に、「Spirit Of The Gameキャプテン」がいます。主な役割は、試合前の「Spirit Of The Game」の意識づけや、試合後の「Spirit Of The Game」のフィードバックなどです。

私は去年「Spirit Of The Gameキャプテン」をやっていたことから、今も現・「Spirit Of The Game」キャプテンのサポートをしています。私はチームのことが大好きで、妊娠・出産後もチームに戻りたいと思っているので、プレーヤーでなくともそうやってチームに関わっていたいんです。

中原:鮫島さんの今後の目標はなんですか?

鮫島:まだ具体的には考えていないのですが、アルティメットの普及活動に力を入れていきたいです。近年、日本の人口が減っているため、スポーツをやる人も自然と減っていくと思います。また、これから盛り上がっていくスポーツもあれば、衰退していくスポーツもきっとあるでしょう。その中でもアルティメットを選んでもらえるように、何らかの形でアルティメットの普及に貢献したいです。

また、現在私は就職口の少ない障がい者の方向けの農園で働いており、彼らと関わる機会が多いです。その経緯で、最近は障がい者の方のためのフライングディスクを使ったスポーツができないかと考えています。

中原:最後に、アルティメットに興味のある方や、アルティメットを知らない方に向けてメッセージをお願いします。

鮫島:私はアルティメットを通して人間的に成長でき、このスポーツに出会えて本当に良かったと感じています。いろいろな国で友達ができたり、海外で貴重な体験ができたり、そこからさらに新しい夢が生まれたり。スポーツを通してさまざまなことを経験し、学ぶことができるスポーツがアルティメットです。
ぜひ、まずは気軽に公園やビーチでフリスビーを投げるところから、皆さんに慣れ親しんでいただければと思います!